2014年4月29日火曜日

日本の10年以上先を行く欧州の自然エネルギー政策

日本の10年以上先を行く欧州の自然エネルギー政策

政府の「エネルギー基本計画」は、自然エネルギー電力の目標として、2030年時点で2割を上回ることを参考指標として掲げた。しかし、欧州では現時点で既に23%。化石燃料輸入費の削減を、大幅な自然エネルギー拡大で実現しようとする欧州の取組みに日本は学ぶべきではないか。

先導性を放棄した日本の「エネルギー基本計画」

政府が4月11日に閣議決定した「エネルギー基本計画」は、脱原発を求める国民の声に背を向けるだけでなく、自然エネルギーの飛躍的な拡大が進む世界の状況にも目を閉ざしたものだ(政府計画に対する財団の見解については、すでにいくつかの見解、声明を公表しているのでご覧いただきたい)。
世界の自然エネルギーの潮流を紹介する本連載コラムでは、前回の中国の状況に続き、欧州の状況を紹介する。今回、閣議決定された「エネルギー基本計画」の自然エネルギーに関する認識が、いかに時代錯誤のものなのかがおわかりいただけると思う。
2月に開催された自然エネルギー財団のシンポジウム"REvision2014"において、欧州再生可能エネルギー評議会会長のライナー・ヒンリックス・ラールウエス氏が、現状と目標、課題をたいへんわかりやすく紹介しているので、これを中心に、欧州の状況をお伝えする(講演資料と動画は、財団ホームページを参照。なお、本コラムの内容の文責は筆者にある)。

新設電源の7割は自然エネルギー

図1は欧州で毎年、新設される電源設備の種類別の内訳を示したものである。風力発電や太陽光発電の割合が着実に増加してきていることがわかる。直近の2013年の時点では、新設電源の72%が自然エネルギー電源になっている。ちなみに他の電源の中で大きな比重を占めているのはガス発電だけであり、特に原子力発電の新設はほとんどなくなっていることがわかる。
図1 EUにおける電源別の年間新設容量の推移(縦軸の単位はMW)
(国際シンポジウム「REvision2014」におけるヒンリックス・ラールウェス氏の発表資料より)
Annual Power Capacity Additions in the EU: 72% Renewables in 2013
Annual Power Capacity Additions in the EU: 72% Renewables in 2013
Source: EWEA, Wind in Power, 2013 European Statistics, February 2014
現時点で、欧州の電力消費に占める自然エネルギーの割合は既に23%に達している。EUが2020年目標として自然エネルギー20%を掲げていることは、日本でも比較的よく知られていると思うが、これは電力だけでなく、熱も自動車燃料なども含めたエネルギー全体の目標だ。熱は15%まで行っているが、燃料が5%以下と苦戦している。しかし、全体では13%まで到達しており、EUは2020年までには、追加的な取組みで達成可能と見込んでいる。いずれにしろ、日本よりはるかに先を行っている。

2030年目標をめぐって

欧州委員会は、本年1月に気候変動対策及びエネルギー政策の統合的なパッケージの一環として、2030年における、エネルギー消費に占める自然エネルギーの割合を最低27%にするという目標を提示した。2020年目標と同様に、これは電力消費だけではなく、エネルギー消費全体の割合だ。電力だけの目標は独立に設定されていないようだが、EUのホームページにある説明の中では、電力については最低45%をめざすとされている。
2030年に「約2割を更に上回る」という日本の目標は、このEUの目標からすればいかにも控えめすぎる。エネルギー政策の統合パッケージは、本年3月下旬の欧州理事会で正式決定される予定だったが、ウクライナ情勢の急変を受けて10月まで延期された。3月の欧州理事会では、ロシアへのエネルギー依存度を引き下げ、域内のエネルギー自給率を高めることが目指されており、10月までに自然エネルギー導入目標が下方修正されることは考えにくい。
ここでご紹介しておきたいのは、日本の「エネルギー基本計画」からすれば極めて意欲的に見えるEUの2030年目標が、欧州の自然エネルギー事業者やNGOなどからは、消極的だ、という批判を受けていることである。実際に財団のシンポジウムでの講演でも、ヒンリックス・ラールウエス氏は「2020年に20%だった目標が、2030年に27%という目標は、野心的ではない」と評価し、40%以上にすべきだと指摘していた。

燃料費削減を自然エネルギーで

ライナー・ヒンリックス・ラールウェス氏(欧州再生可能エネルギー評議会会長)による講演
ライナー・ヒンリックス・ラールウェス氏(欧州再生可能エネルギー評議会会長)による講演
国際シンポジウム「REvision2014」にて
注目すべきなのは、欧州においてこのように高い目標が提起される背景には、それが気候変動対策上、必要だということに加え、経済的にも大きなメリットがある、という認識があることである。欧州は3880億ユーロ(約55兆円)もの化石燃料を輸入しており、21兆円の貿易赤字の原因になっている。ヒンリックス・ラールウエス氏は講演で、2030年までに自然エネルギーを成長させることで、3500億ユーロ(約49兆円)の化石燃料輸入額を削減できると指摘した。
経済的メリットには雇用面もある。現在、自然エネルギー産業は120万人の雇用の場を作り出しているが、2020年には270万人、2030年には440万人まで拡大できると推計している。
もちろん、こうした推計は前提の置き方によって異なる数値になることもあるだろう。大事なことは、化石燃料の輸入費や貿易赤字の削減を自然エネルギーの拡大によって実現しようという戦略だ。燃料費の増加を全て原発停止のせいにし、原発と石炭火力を「重要なベースロード電源」と位置付ける日本の「エネルギー基本計画」は、もっと欧州の政策に学ぶ必要がある。

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